冬の男たち・八経ヶ岳
大峰山系・八経ヶ岳
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07時の集合時間を20分過ぎて最後のメンバーが現れた これで3名全員集合だ 世間一般的には年末の多忙な時期、遣り残したシゴト、年賀状、大掃除･･･ いろいろあるはずだ、なのに土曜の早朝に道の駅に集まった男たち 一人は朝から妙に浮かれ、一人はまだ顔が赤く、一人は液体胃腸薬を手に そう、三人とも忘年会明けで二日酔いだった そんな男たちが集まった目的は他でもない 雪ヤマで猪肉を喰らう！ ただ、それだけのために集まったのだ
なのに当日は生暖かく、雪どころか霧氷のカケラさえ期待できない状況 落ち込む一方のモチベーション、二日酔いの鈍ったカラダ、立ち上る酒臭い汗の湯気 それでも男たちは歩く、距離10KM、標高差約1,200のロングコースをひたすら歩く
林道の工事現場で焚き火にあたる作業員に、半Ｔシャツ姿で歩く姿を笑われても 2月の厳冬期と同じ場所でルートロストしても 自ら発する前夜飲みすぎた酒の芳香に酔って気分が悪くなっても･･･ 男たちは進む、ただ猪肉を喰らうために進む しかし･･･なぜ狼平なんだろう？それも川合からなんてロングコースなんだろう？ 胸の中では思っていても決して男たちは口に出さない いや、出せない、何故なら、もう後戻りは出来ないからだ
5時間40分、何故かＣＴよりも早く到着した避難小屋では早速ビアで乾杯 そう、二日酔いだったことも忘れて･･･そして今回の目的である猪肉を喰らい始める 柔らかく匂いも無い極上の猪肉は、持ち寄ったアルコールであっという間に消えた
急登中に前夜の酒がリバースしたのも、自分が芋焼酎クサイと嘆いたのも忘れてビアをガブ飲みする男 小さな諍い事で、この三日間奥様に口を聞いてもらえないとこぼす男 先日、ルミナリエの雑踏の中で数十年ぶりに奥様の手を握った、その（新鮮さ）を熱く熱く語る男 霧雨に煙る狼平、冬の男たちの熱い宴は続く
そして翌朝 男たちは走った ガスに煙りヘッ電の灯も数メートルしか届かない登山道を弥山に向かう早朝 霧氷もご来光もあきらめモードだったが、弥山神社の鳥居から向こうに朝焼けの空が見えたのだ
その美しい朝焼けに胸焼けも忘れ、男たちは佇んだ なんだか、最近見たような光景だな？なんて無粋なことも思わずに佇んだ （一人の男は、ほんの3週間前に来たばかりだった）
国見八方覗の突風から逃げるように弥山小屋に戻る 朝焼けは冬の空をどんどん染めて行く
弥山神社に行きましょう、お参りしましょう お参り好きな一人の男の言葉に誘われて鳥居を潜るとき 振り返ると流れる雲海のさざ波に浮く八経ヶ岳、その神々しい姿に息を呑んだ
奥さまの願い事を祈る男がいる 奥さまと仲直りできることを祈る男がいる もう一度（新鮮な気持ちで）奥さまの手を握りたいと祈る男がいる 神の前で男たちは素直な少年に還った お参りした後は神社裏、立ち枯れ地帯にも朝陽が射し、その荒涼たる姿も一瞬輝く
そのまま狼平へ戻る予定だったが、雲海の消え去った八経ヶ岳は 遥か釈迦ヶ岳も望めるほど晴れ渡り、男たちを誘う
これを独り歩いたんだ･･･ ３週間前に縦走したルートを近畿最高峰、1,914ｍから眺める男は、ため息ひとつ
弥山辻から日裏山へ、霧氷の立ち枯れを進む、ザクザク、ザッザと進む
神々の住む山、今目覚めるその瞬間、男たちは息を止めて立ち止まる
眩いばかりの霧氷の輝きを浴びて、男たちは一夜の宴の終わりを惜しむ
狼平から下、頂仙岳を過ぎるまでは霧氷も無かったが ブナの原生林が美しいカナビキ尾根分岐辺りでは、何故か再び霧氷に包まれる ここも風の通り道だったのか その美しすぎる霧氷の稜線上で男たちは感動を誰かに伝えたくなる
三日間奥様に口をきいてもらえない男はメールした 『 愛してるよ 』 返信は無い 奥様にすれば、そんなメールするヒマあれば早く帰って風呂でも洗って欲しいところだろう
大キジを撃って来た男は言う 『 あぁーもうすっきり！（大きいの、いっぱい出たよ）て、ヨメにメールしました〜♪ 』 やはり返信は無い、当然無い きっと奥様は、ルミナリエでどくさくに紛れて握られた手を慌てて洗ってることだろう
『 無事下山中。猪肉美味しかったぞ〜霧氷がめっちゃキレイやろ？予定通りの時間に帰るから♪』 霧氷画像付きで奥様へ下山報告メールした男のケイタイが震えた あ、なーんだ、オレだけ？返信あったの？ふふっ♪男は笑みを浮かべメールを見る
『 Re: はい 』
その愛に溢れた返信を披露することもなく、男はケイタイをオフると1518ピークに佇んで、ため息ひとつ 山は、山はいいな･･･
雪山で猪肉を喰らう ただそれだけのために年の瀬に集まった冬の男たち 雪は無かったが、冬枯れに透き通った青空、輝く霧氷に大成功を認め合った そして男たちの想いは厳冬期のピークへ
神々が眠る頃、もう一度ここに集おう
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