もろく崩れやすいトレイルの降りは続く

正面には笠ヶ岳

それにしても暑い、焼けた岩肌のうえ、陽炎が揺れている

足元の鎖は長く、掴む岩はどんどん崩れて行く

鎖に頼りすぎて身体が振られ、足元の岩肌を蹴散らしながら

ズルズルと岩屑と共に着地

あぁ、ちょっと雑になってるな、もっと丁寧に歩かないと

一息入れる間もなく見上げると

ついに難関として名高い峰

飛騨泣きだ

切れ断つ足元には、プレートが埋め込まれ足場を安全に確保してくれてる

それでもこの高度感だ

ペンキマークの向こう、うねったようなトレイルが続く先は長谷川ピークだな･･･

と、難関を越えたときナニモノかの気配を感じて振り向く、岩影の小さなスペースに一人の少年がいた

岩に背を預け、両足を放り出して座り込む姿は、我侭をきいてもらえなくて拗ねてるコドモそのもの

思わず声をかけたのは、挨拶ではなかった　『・・・どうした？こんなところで？』

『まだ・・・北穂は、まだまだ先ですか？まだコワイところばかりですか？』

よく見ると大学生っぽいその少年は、視線を合わそうともせず小さな声を出した

『もう、もうダメなんです。これ以上歩けません。もうダメです・・・』

なーにを甘えてんだ、このヤロー！と、暑さのせいもありムカついてしまった

『ここって怖いに決まってるだろ？なんでこのルート来たの？何のためにこのルート選んだの？』

見知らぬオヤジの詰問に、堰を切ったように語り始める無防備さが、この少年の全てを物語っていた

仲間との諍い、意地の張り合い、仕方なく単独で・・・そんなくだらない内容

聞いててバカらしくなったが、何故か放ってはおけない

『男なら最後まで意地を張れよ！最後まで自分の足で歩けよ！こんなところ座り込んでてどうする！』

だらだらと続くグチを遮った私の大声に、少年は一瞬呆然とした顔、そしてポロッとこぼした

『でも・・・、水が、水がもう無いんです。』