なんだ？結局は縦走路上で水切れになって自暴自棄になってるだけじゃないか

一瞬、いろんなことが頭を過ぎったが、ザックのペットボトルを全て並べる

『ほら、これが俺の水。500mlが3本。今日の暑さじゃ･・・１本だけな。これだけだぞ、やれるのは』

少年はまるで神様を見るような顔で私を見上げたかと思うと、急にポロポロと涙を流し始めた

あぁ〜ぁ・・・、ったく、なんでこんな子がこんなとこ歩くんだよ

『ここから北穂まで最低でも90分は登る、だから飲むんじゃなくて、舐めるだけにしろよ』

Ｋと名乗った少年は、分かったんだか、どうだか不明な情けない表情で頷くだけだった

そんなロスタイムを過ごした後、長谷川ピークを望みながら、足元が不安定な降りは続く

この辺りから南岳からの縦走者とすれ違い始める

砂礫で滑りながら降り立った場所は、Ａ沢のコル

誰もいないコルにザックが一つ・・・、何かトラブルがあったに違いない

長谷川ピークから降り立った単独さんと、二人無言で見守る

まるで近づくと良くないことが起こるかのように、そのザックを遠巻きに見守る

縦走路上で最も休憩に適したコル、なのにそそくさと歩き始める

いよいよ長谷川ピークだ

ペンキマークに従い、岩峰を巻くようによじ登り始める

登りきると右手に南岳、左手に長谷川ピーク

そこからまた降る

飛騨側からは冷たい風に煽られ、反対側に出ると焼け付いた岩肌、その繰り返しが体力を奪って行く

さぁ、長谷川ピークへの登り返しだ

と、見上げると女性が降るのを躊躇している、先に降りたご主人が下から奥さんに指示を出す

『怖がったらダメだー！、うしろー、うしろ向きになれー！』

ここまで来ると、高度感にも慣れ、恐怖心も薄れていたが、人が目の前で怖がっているシーンはイヤなもんだ

10時50分

長谷川ピーク登頂

1時間40分の行程、自分の思ったＣＴよりも早いのは、人が少ないからだろう