モンスターの翼と格闘しながら、ふと気付くと空が明るくなっている

と、目の前に八経ヶ岳が姿を現せた

前を行くＴさんが笑顔で振り返る、思わずサムアップで応える

この姿を拝めた、その達成感、そして、このビューポイントまで来ると

もう弥山ピークはすぐそこ、そんな安心感で、少し虚脱状態となる

風は凪いで、うっすらと空も明るい

その全身を白く纏った近畿最高峰、こんな天候でも気高い姿だ

Ｔさん、オレもういいよ、これで充分、満足したよ

ビューポイントに着いた瞬間だけ消え去ったガスは、もう戻って来ている

モンスターたち、お前たちが扇いでくれたのか？思わず凍える森を振り返った

さぁ、最後のひと登りだ、ピークを踏もう

再びガスに煙る尾根を進む

モンスターたちの姿は徐々にスリムになって行く、と、そこにいるのは凍える立ち枯れたち

その姿はいつもよりも寂寥感を覚えてしまう

先行するＴさんが首をかしげている、そうだな、もうピークのはずなのに神社の姿が見えない

うーん、この辺りのはずだろう、だって、その先は小屋へ向かって下ってるぞ

と、回り込むと神社はあった、裏手から見ると単なる雪の塊にしか見えないのだ

なんて深い雪なんだ

鳥居も埋まり、Ｔさんの腰以下の高さだ、こりゃすごいことになっている

さぁ、二人で神社にお参りしよう

こんな日にピークを踏ませて頂いてありがとうございます、無事に下山できますようお願いします

今日は意外と暖かい、そう感じていたのがウソのように寒くなる

そりゃそうだ、ここは風を遮るものは何も無い

と、弥山小屋の方へ下って行くとヒトの気配がする・・・

あぁ、こんなコンディションの中、私のBBSに予告された通り、登って来てたんだ

弥山小屋の前には下山準備中のパーティの姿、そのパーティこそ

いつか山でバッタリしたいと願っていた、私の憧れる冒険者たち、山童子会の皆さんだ

そのアツいオトコたち、こんな豪雪の中、なんと聖宝谷をアタックされていた

『 ほんま、アホやなぁ、こんな日に来るかぁ〜 』　『 はいはい、ほんまアホですわ〜 』

お決まりの”お互いさま”な挨拶をしてしばし談笑、激しくなった吹雪の中、オトコたちは消えていった

さて、この吹雪の中八経目指しても仕方無い、予定通り下山としよう

だが、相棒のTさん、その表情からは八経を踏めないことが名残惜しそうだ

八経へと続く稜線を睨みながら、一瞬もう一泊することも頭を過ぎった

いやいや、こんな天気だし、明日は今日よりも悪い

林道に停めてる車も雪で埋もれてないか心配だ

帰ろう

下りは、モンスターの翼を避けながら、スノーシューで思い切り踏みつけながら進む

ふた組のスノーシューがドカドカと雪を踏みつける音に

モンスターたちが、一瞬怯んだような気配を感じた